読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

雨音   4

愛は言いつけ通り僕に色々な話をしてくれた。

主に最初の主人に関してだけど。

*********

愛さんと出会ったのは、バスの中でした。

僕は当時髪の色が金色だったので、とても目立っていたのかもしれません。

僕は当時十七歳で、愛さんは二十歳でした。

綺麗な人でしたよ、すごく。

だけど、とてもとても細い人だった。

なのに、まだまだ足りないと言っていた。

どうして僕は愛さんに飼われるようになったのかわかりません。

自然と愛さんと目が合って、そのまま愛さんの部屋に行ったことは覚えています。

僕には両親がいないので、両親の遺産で生活していました。

だから、僕がいなくなっても誰も探す人はいません。

お金目当ての親戚も幸いいなかったので、僕の今を知っている人は誰もいない。

目の前にいるシュウさんだけです。

愛さんとの生活は楽しかったのかと聞かれたら楽しかったですし、辛かったかと聞かれたら辛かったです。

愛さんには好きな人がいました。ずっとずっと、心に残っている人がいました。

だから、愛さんはずっと寂しくて僕と一緒にいるんです。

愛さんはいつも僕を愛していると言ったかと思えば消えてくれと言いました。

だけどすぐに泣いて謝って、そばにいてとしがみついてきました。

そんな愛さんが僕はとても好きでした。

愛さんは、心に残っている人の所在を知ってしまったんです。

それが、僕らの終わりの合図でした。

その人はもう他の誰かと結婚していて、愛さんの手が届かない場所にいました。

でも、愛さんはお酒の力を借りて会いに行った。

でも、門前払いされてしまったようです。

その日の愛さんはすさまじい荒れようでした。

「あたしがもっと細かったらいいんだ!あの人は小さくて華奢な女が好きだから!」

「あの人連れてきてよ!連れてくるまで帰ってくんな!」

「行かないで!あたしを一人にしないで!」

そんなことをずっとずっと叫んでいました。

僕はどうしようもなくて、愛さんを抱きしめていました。

愛さんが僕の体に乗ることはあっても、僕から愛さんに触れることは一度たりともなかったので、これが最初です。

そして、最後です。

腕の中で愛さんは言いました。

「他の誰も見ないで」

僕はわかりましたと言って、抱きしめる腕の力を強めた。

それだけでは愛さんが不安がることは理解していたけど、それでも、僕にできることと言えばそれしかなかった。

「信じられない」

やっぱり愛さんには伝わりませんでした。

僕の腕から離れた愛さんはナイフを持ってきて、僕の目の中に入れました。

痛さ、というものは突き抜けていくと感じないんだなって初めて知りました。

意識が遠のきそうな状態で、僕は愛さんを抱きしめようと腕を振りましたけど、どこに愛さんがいるのかよくわからなくなってしまいました。

気付いた時には病院に居て、愛さんが死んだことを聞きました。

僕のそばで死んだ愛さんが僕はずっと好きです。

愛さんを好きでいられることは幸せですよ、本当に。

*********

それから、名前のない少年になり、あの店に出入りするようになった、と言っていた。

色んな人に飼われては捨てられて、あの店に戻った、とも。

そして本当の名前は教えてくれなかった。